キルンキャスト(鋳造硝子)技法について
キルンキャストでつくる作品は、私の場合紙に描いたスケッチをもとに原型を粘土でつくところから始まります。つくった原型の上から石膏をかぶせ原型の粘土を石膏からきれいに取り除きます。そうすると原型の形の空洞が石膏の内側にできます。できた空洞にガラスの粒をつめ、キルン(電気窯)に入れます。
窯の温度を800℃〜900℃(大きさや形状による)になるまで注意深く上げ、ガラスが空洞の隅々まで行き渡るよう溶かします。
石膏の内側に満ちた高温のガラスを、温度差に弱いのでゆっくり割れないよう冷まします。
素手でさわれるくらいの温度まで冷めたらキルンから出し、石膏を木槌などで砕き、原型の形に固まった硝子を掘り出します。
いくつかはガラスが隅まで流れず途中で固まっているものやイメージに合わないものができます。特に初めての形は無事完成する方がめずらしく、試行錯誤が必要です。
掘り出した硝子は石膏を洗い流し表面を削ったり研磨したり、形や質感を整えていきます。ここでようやく硝子を直に触りながらの作業になります。手を加えた部分が目に見えて作品に反映されるので楽しい作業です。
最後は気泡につまった粉を洗浄して完成。金銀エナメルなど色を乗せる場合は色を付けた後、もう一度窯に入れ溶着させます。
このようにキルンキャスト(鋳造硝子)は完成までにかかる手数がとても多く、それぞれに熟練が必要で、本来アールヌーボー期のパート・ド・ヴェールのように分業が向いている技法です。ひとりで全部の工程をこなすには、きちんとした計画とたくさんの経験、失敗にめげない心と根気が必要になります。はじめた頃はつまずくたびに落ち込んでいましたが、続けるうちに自分の欠けた部分を硝子に鍛えられ、少々のことでは動じなくなりました。とはいえ欠けた部分が完璧に埋まることは(それはそれでつまらない)なさそうですが、これからも硝子の声を頼りに手を動かし続けようと思っています。
2025年1月7日 松本裕子